Webシステムのアーキテクチャ選定

システム開発

Webシステムのアーキテクチャを選定する際には、様々な要素を総合的に検討する必要があります。適切なアーキテクチャを選ぶことで、システムの拡張性、パフォーマンス、セキュリティ、運用性などを最適化でき、開発・運用コストの最小化にもつながります。以下の点に留意しましょう。

1. 要件の詳細な分析
アーキテクチャ選定の出発点は、システムに求められる機能要件と非機能要件を明確にすることです。機能要件からは処理の種類や複雑さ、データ構造など、非機能要件からはパフォーマンス、拡張性、可用性などの制約条件が導き出されます。これらの要件を入念に洗い出し、定量化することが重要です。

例えば大手小売ECサイトの機能要件として以下が挙げられるでしょう。

  • ユーザー登録/認証、カート機能、決済機能、キャンペーン管理
  • ストックチェック、在庫連携、配送管理、返品処理など

非機能要件の例:

  • 最大同時アクセス数100万、平均レスポンス0.5秒以内
  • 1週間のピーク時の売上データは3年保持
  • ストックデータはリアルタイム連携が必須

2. システムの特性の把握
次に、構築するWebシステムの種類や規模、対象ユーザー数などの特性を把握します。例えば、大規模Eコマースサイトか小規模Web APIシステムなのか、一般ユーザー向けかエンタープライズ向けなのかで、アーキテクチャの要件は大きく異なります。

具体例として、

  • B2CのECサイトで国内3,000万人の会員を想定
  • ピーク時の同時アクセスと頻繁な在庫データ更新が発生
  • 既存の基幹システムやERP、WMSとのデータ連携が必須

3. アーキテクチャパターンの検討
要件とシステムの特性を踏まえ、具体的なアーキテクチャパターンの比較検討を行います。代表的なパターンとしては以下のようなものがあります。

  • モノリシックアーキテクチャ(単一アプリケーション)
  • マイクロサービスアーキテクチャ
  • サービスオリエンテッドアーキテクチャ(SOA)
  • イベント駆動型アーキテクチャ
  • ヘッドレスアーキテクチャ(BFF/APIゲートウェイパターン)
  • サーバーレスアーキテクチャ

各パターンの長所短所、適用シーンをよく理解し、システム要件にどれが最もフィットするかを検証します。

具体例として、

  • マイクロサービスアーキテクチャが適切と思われる
    (アクセスピークに強く、機能ごとのスケーリングが可能)
  • ドメイン別にサービスを分割する。例:
    • 認証サービス、カタログサービス、注文サービスなど
  • イベントドリブンでデータ連携し、非同期性を確保

4. アーキテクチャ視点の検討
選定では、単一のアーキテクチャパターンだけでなく、以下のような複数の視点から構成要素を検討する必要があります。

  • デプロイ視点(オンプレミス、クラウド、ハイブリッド)
  • スケーリング視点(垂直、水平、自動スケーリング)
  • セキュリティ視点(認証、認可、データ保護など)
  • パフォーマンス視点(キャッシュ、CDN、ロードバランシングなど)
  • データ永続化視点(RDB、NoSQL、データレイク/ウェアハウスなど)

具体例として、

  • デプロイ: AWS/Azureなどパブリッククラウドが適切
  • スケーリング: オートスケーリンググループを使った水平スケーリング
  • セキュリティ: WAF、フェデレーテッドアクセス、データ暗号化
  • パフォーマンス: Global CDN、ElasticCache、ロードバランサーの活用
  • データ永続化: RDS(商品/注文)、DynamoDB(セッション/ショッピングカート)、S3(ログ)

5. ベストプラクティスの参照
アーキテクチャ選定においては、業界でのベストプラクティスを参照することも重要です。Webシステム特有の代表的なパターンとしては、12FactorアプリやClean Architectureなどがあります。クラウドベンダー各社が公開するアーキテクチャガイドラインも有益な情報源です。

具体例として、

  • AWSはWebアプリ向けリファレンスアーキテクチャを公開
  • マイクロサービスのパターンに「ストラングラーパターン」がある(モノリスとマイクロの移行手法)

6. プロトタイピングと検証
複数の候補アーキテクチャを絞り込んだ後は、プロトタイピングによる実装検証を行うとよいでしょう。PoC(Proof of Concept)を構築し、スケーラビリティテスト、負荷テスト、障害テストなどを実施して、目標の要件を満たすかを確かめます。実務的な観点からの評価も行えます。

具体例として、

  • EKSまたはECSでマイクロサービスのPoC構築し、スケーラビリティテスト実施
  • オートスケーリングのルールや、RDSマルチAZの動作確認
  • WAFやIAM Rolesによるセキュリティ検証
  • よくあるアンチパターンのチェックも重要

7. 総合的な評価と選定
上記の検討結果を基に、機能適合性、コスト、ベンダーロックイン影響度、将来の拡張性、チームのスキルなどを総合的に勘案し、最終的な採用アーキテクチャを選定します。この際、定量評価と定性評価の両面から多角的に評価することが大切です。

具体例として、

  • ストラングラーでマイクロサービス化を進め、AWSでサーバーレスも部分採用
  • オンプレのシステムとはAPIで疎結合し、完全クラウド移行は行わない
  • チームにDockerの経験があり、開発/運用ともマイクロサービスに精通
  • クラウドコストとセキュリティ運用を考慮し、フルマネージドサービスを重点利用

8. ロードマップと移行計画の立案
最適なアーキテクチャが選定できたら、次はその実現に向けたロードマップを立案します。全面的な新規構築か段階的なリファクタリングなのか、移行の手順と工数、リソース投入計画をしっかりと検討しましょう。アーキテクチャ選定は第一歩に過ぎず、適切な移行計画なくしては実効性がありません。

具体例として、

  • 現行モノリシックアプリからストラングラーで1年半かけてマイクロサービス化
  • Phase1でユーザー認証、商品カタログなど最小機能をマイクロサービス化
  • その後3-6ヶ月おきに他の機能をマイクロサービス化
  • クラウド移行は段階的に進め、オンプレ/ハイブリッド期間を設ける
  • 移行中も現行システムの機能拡張やECMSの更改は並行して実施

このように、Webシステムのアーキテクチャ選定は、要件の深い理解と複数の代替案の比較検討が不可欠なプロセスとなります。アーキテクチャそのものの検討に加え、プロセス面の十分な準備とリスク分析、事前の綿密な検証作業なども重要です。このプロセスを通じて初めて、将来を見据えた最適なWeb システムアーキテクチャを選ぶことができるのです。

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