Webシステム要件定義の進め方

システム開発

Webシステムのシステム要件定義は、開発プロジェクトの成功に大きく影響を与える重要な作業です。適切な要件定義を行うことで、顧客の期待に沿ったシステムを構築でき、開発の遅延や追加コストを最小限に抑えることができます。要件定義の進め方については以下の点に注意が必要です。

1. ステークホルダーの特定
要件定義を開始する前に、誰がシステムの利用者(ユーザー)になるのか、誰がシステムに何を期待しているのかを明確にする必要があります。ステークホルダーには、最終ユーザー、顧客、経営層、運用担当者など様々な立場の関係者が含まれます。それぞれの役割と期待値を把握し、要件に反映させることが大切です。

例えば、新規ECサイトシステムの要件定義を行う場合、以下のようなステークホルダーが想定されます。

  • 最終ユーザー: 一般消費者、法人顧客
  • 顧客企業: 自社の経営層、マーケティング部門、物流部門
  • システム運用担当者
  • 外部ベンダー(納品先)

2. 要件収集
ステークホルダーからの要件を収集する際は、インタビューや観察、ワークショップなどの手法を用います。この際、ユーザーの業務フローや作業環境、利用シーンをできる限り具体的に把握することが重要です。また、機能要件だけでなく、非機能要件(パフォーマンス、セキュリティ、UIデザインなど)についても十分に収集する必要があります。

具体例として、

  • 最終ユーザーへのインタビューや購買行動の観察により、UIの使いやすさや商品情報の表示要件を収集
  • 顧客企業のマーケティング部門に対するワークショップで、販売戦略に基づく機能要件(キャンペーン機能など)を抽出
  • 物流部門へのヒアリングにより、在庫管理や配送機能に関する要件を収集
  • 運用担当者から、システムのスケーラビリティやメンテナンス性に関する非機能要件を聴取

3. 要件の構造化
収集した要件をまとめる際は、適切な構造化を行う必要があります。一般的には、機能要件と非機能要件に分類したうえで、さらにユースケース、データ要件、インターフェース要件などのカテゴリに整理します。この際、要件間の優先順位、相互の依存関係なども検討し、トレーサビリティが確保できるようにします。

収集した要件を以下のような形で整理します。

  • 機能要件
    • ユースケース(ショッピングカート、決済、キャンペーンなど)
    • データ要件(商品データ、顧客データ、注文データなど)
  • 非機能要件
    • システム要件(可用性、スケーラビリティ、性能など)
    • 運用要件(バックアップ、障害監視など)
    • セキュリティ要件(認証、決済データ暗号化など)
    • 法令要件(プライバシー、電子契約など)

また、要件間の優先順位付けや、関連要件のグループ分けなども行います。

4. 要件の評価と合意形成
整理した要件をステークホルダーに提示し、レビューを受けます。この際、要件の妥当性、完全性、一貫性などを確認します。不明確な点や矛盾がある場合は、追加の収集や調整を行います。最終的に、ステークホルダー全員から承認を得ることが重要です。

ステークホルダーに要件を示し、レビューを実施します。

  • マーケティング部門から提案の新機能が欠落していないか確認
  • 最終ユーザーからUIのユーザビリティ要件が適切か確認
  • 顧客企業と納期や開発規模の妥当性について協議
  • セキュリティ要件について外部コンサルタントから精査

このようにレビューを重ね、最終的に全ステークホルダーからの承認を得ます。

5. 要件の文書化
合意された要件は文書化し、開発チームに提供します。要件定義書は、「機能/非機能要件一覧」「ユースケース記述」「データモデル」「画面遷移図」などで構成されます。分かりやすさと一貫性を保つため、所定の記述ルールやテンプレートを用います。

合意された要件を、所定の要件定義書形式で文書化します。

  • 機能要件一覧/非機能要件一覧
  • 代表的なユースケース記述(テキストおよびユースケース図)
  • データモデル図
  • ユーザーインターフェース画面設計書
  • 補足事項(前提条件、制約事項、用語解説など)

6. 要件の追跡と変更管理
要件は開発が進むにつれて変更が生じることがあります。このため、変更履歴の管理と影響範囲の追跡が重要になります。また、変更が生じた場合は、ステークホルダーの合意を改めて得る必要があります。要件トレーサビリティを確保し、常に最新の要件を参照できるようにしておくことが大切です。

開発が進むうちに、追加の要件変更が発生する可能性があります。

  • 顧客から新機能の追加要求があった場合、影響範囲を分析し、対応可否を検討
  • 外部の法令変更により、システム要件の変更が必要となった場合の対応
  • 変更履歴と経緯を要件追跡表で管理

7. 継続的な改善
要件定義は一過性の作業ではなく、システムのライフサイクル全体を通じて継続して行う必要があります。リリース後のユーザーフィードバックや環境変化を反映し、定期的に要件を見直し、改善していくことが求められます。

リリース後も、以下のようにフィードバックを受け、要件の改善を重ねていきます。

  • ユーザーからの改善要望を定期的に収集
  • 売上データやアクセス解析に基づき、UIやメニューの改善要件を抽出
  • 年次リリースに向けて、新機能の要件を都度定義
  • 技術トレンドの変化に応じ、システム要件(クラウド化、マイクロサービス化など)を見直し

Webシステム開発においては、このような要件定義プロセスを着実に実行することで、顧客の本当の要求に沿ったシステムを構築することができます。要件定義は、単に機能の確認作業ではなく、ビジネス要件や価値を的確に捉え、ソフトウェアに落とし込んでいく重要な作業なのです。

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