Webシステム開発における設計書の作成は、重要かつ大変な作業です。しかし、近年では設計書作成の一部を自動化するための様々なツールやアプローチが提案されています。設計書作成の自動化には以下のようなメリットがあります。
- 作業効率と生産性の向上
- ドキュメントの一貫性と品質の確保
- 人的ミスの低減
- 設計変更への追従性向上
設計書作成の自動化を実現するためのアプローチとして、以下のようなものが挙げられます。
1. モデル駆動アーキテクチャ(MDA)の活用
モデル駆動アーキテクチャでは、システムの要件や設計をモデル化(UMLなど)し、そのモデルからソースコードやドキュメントを(半)自動生成します。
具体例として、Eclipse Modeling Frameworkを使ってUMLモデリングを行い、そこからJavaコードやデータベース設計書を生成する方法があります。
- UMLツールであるPapyrus等を使い、ユースケース図、クラス図などのモデルを作成
- MOFスクリプトによりモデルからJavaのソースコードを自動生成
- DB設計ツールを利用し、モデルからER図やDDL、物理データモデル図を出力
2. ドメイン特化言語(DSL)の利用
特定のドメインに特化した小規模な言語(DSL)を設計し、それを使ってシステム設計を表現・定義します。DSLからドキュメントや設定ファイルを生成できるツールを用います。
具体例として、Apache CamelのDomain-Specific Languageがあり、これを使って統合システムの設計を行い、設定ファイルやドキュメントを自動生成できます。
- ルートやエンドポイントをXMLまたは小規模DSLで記述
- DSLからJavaコード、設定ファイル、接続図などを自動出力
- DSLの構文チェックやドキュメンテーション生成ツールが付属
3. アーキテクチャ記述言語(ADL) の使用
アーキテクチャを特化した記述言語を使い、システムアーキテクチャを定義します。ADLには設計書生成の機能が備わっています。
具体例として、AcmeStudioというADLがあり、これを使ってコンポーネント設計を記述し、システム全体の設計書を自動生成できます。
- AcmeStudioで設計の構造、振る舞い、インターフェースなどを定義
- 設計記述からコンポーネント図、シーケンス図、設計書がひとまとめで出力
- コードスタブやテストケースのひな型も自動生成可能
4. ドキュメンテーションジェネレーター
ソースコードに埋め込まれたコメントやアノテーションからドキュメントを自動生成するジェネレーター類が含まれます。
具体例として、JavadocやSphinxといったソースコードのコメントからドキュメントを生成するツールがあります。
- ソースコードにJavadocコメントを埋め込む
- Javadocコマンドを実行してHTMLドキュメントを自動生成
- SphinxではreStructuredTextで記述し、HTML/PDFドキュメントを出力
5. リバースエンジニアリングツール
既存のソースコードやデータベーススキーマからUMLモデルやドキュメントを再生成するリバースエンジニアリングツールが利用できます。
具体例として、Visual Paradigmの製品があり、Javaコードから自動的にUMLモデルや設計書を作成できます。
- IDEプラグインとして統合されており、簡単にリバースエンジニアリングが実行可能
- Javaコードからクラス図、シーケンス図、設計書テンプレートを出力
- 更新されたコードに対し、自動的にモデルを同期
6. ロープロファイル自動生成
特定のドメインやプロジェクト向けに設計書の雛形(プロファイル)を自動生成するツールの利用も可能です。
具体例として、Architect Codegenというツールがあり、これを使うとフレームワーク向けの設計書の雛形を自動生成できます。
- プロジェクト情報を入力するとひな型の設計書が生成される
- テンプレートエンジンでカスタマイズも可能
- Spring Bootプロジェクト向けの設計書雛形などがある
このようなツールやアプローチを適切に組み合わせることで、設計書作成の一部を自動化し、効率的なドキュメント作成を実現できます。ただし完全自動化は難しく、人間による設計やレビューは必要不可欠です。人間の作業を一部自動化でき、生産性と品質を高められる点に意義があります。また、初期投資とツール導入コストはかかりますが、中長期的にはその投資は十分に償されるはずです。
自動化の技術は日進月歩であり、今後更に高度化が進むと考えられます。設計書作成の自動化により、より高品質で一貫性のあるドキュメントが短期間で生成できるようになっていくでしょう。