WebシステムのUI/UXを設計する際の指針を決定することは、ユーザーエクスペリエンスとシステムの使いやすさを大きく左右する重要な作業です。以下のようなプロセスを通じて、適切な指針を定めることが求められます。
1. ユーザー調査
UIとUXの設計においては、まずターゲットユーザーを明確に定義し、そのユーザーの属性、行動特性、ニーズを十分に把握することが出発点となります。
- ユーザープロファイリング(年齢層、職業、スキル、環境など)
- ユーザーリサーチ(インタビュー、観察調査、アンケートなど)
- ペルソナの作成(典型的なユーザーモデルの設定)
具体例として、
- ユーザープロファイリング
- 20-35歳の会社員/学生を主要ターゲットと設定
- デバイス環境はスマートフォンが7割、タブレット/PCが3割
- IT literacy は中程度と想定
- ユーザーリサーチ
- ユーザーインタビューで、現行サービスへの不満点を聴取
- メニュー構成が分かりにくい
- 操作が煩雑で直感的でない
- ユーザーテストで、新機能の認知度や使い勝手を観察
- ユーザーインタビューで、現行サービスへの不満点を聴取
- ペルソナ作成
- 20代女性会社員「朝子」のペルソナを設定
- 出勤前の電車内で簡単に操作できることがニーズ
2. ユーザージャーニーマッピング
次に、特定のユーザージャーニー(具体的なユースケース)を設定し、システムとのタッチポイントごとの課題や要求を洗い出します。
- ユーザーゴール/タスクの特定(達成したい目的や具体的な作業)
- ジャーニーマップの作成(タッチポイントとUI/UXに対する課題の抽出)
- シナリオ/ストーリーの描写(リッチなコンテクストの設定)
具体例として、
- ショッピングアプリの主要ジャーニー
- 商品検索 → 詳細確認 → カートイン → 決済 → 確認
- ジャーニーマップ
- 検索: キーワード/カテゴリ/画像検索の UI改善が必要
- カートイン: ワンクリックで簡単にカートに入れられるUXが重要
- 決済: クレジットカード/ポイントの分かりやすい UI
3. ユーザービリティ目標の設定
ユーザー調査とジャーニーマップを基に、ユーザービリティの定量的・定性的目標を設定します。
- 利用率、作業時間、エラー率などの定量目標
- 使いやすさ、直感性、魅力度などの定性目標
- アクセシビリティ要件(高齢者、障がい者などへの配慮)
具体例として、
- 定量目標
- 検索的中率: 80%以上
- カートイン操作時間: 3秒以内
- チェックアウトエラー率: 5%未満
- 定性目標
- 使いやすさ: 4点以上/5点満点
- UIの直感性: 4点以上/5点満点
- アクセシビリティ
- WCAGのAAレベルをクリア
4. デザイン理念・原則の確立
目標達成に向けて、全体のデザイン理念やUIの原則、ガイドラインを確立します。
- ユーザーメリット重視のコンセプト
- ビジュアルデザインのルール(色彩、レイアウト、フォントなど)
- UIコンポーネント、パターンのスタイルガイド
- アクセシビリティガイドライン
具体例として、
- メインコンセプト: “Effortless Shopping”
- ビジュアルデザインルール
- シンプルでフラットなデザイン
- ブランドカラーを基調とした色使い
- 改行を意識したレイアウト
- UIコンポーネント
- 検索UIのデザインパターン
- カートUIのデザインパターン
- 決済UIのデザインパターン
- アクセシビリティガイドライン
- 文字サイズ、コントラスト、ラベル付け等の指針
5. UIデザインとプロトタイピング
理念やガイドラインに基づき、UIをデザインします。反復的なユーザーテストとフィードバックを行いながら、プロトタイピングによるUI検証を進めていきます。
- ロー/ハイフィデリティプロトタイプの作成
- ユーザビリティテスト、A/Bテスト、アクセシビリティチェック
- UI改善とプロトタイプの更新
具体例として、
- ロー/ハイフィデリティのプロトタイプ作成
- Sketch/Figmaによる画面設計
- InVisionやXDによるクリックスルー可能なプロトタイプ化
- ユーザーテストの実施
- 課題遂行観察、発話記録
- SUSスコア(System Usability Scale)による定量評価
- アクセシビリティチェック
- 自動チェックツールによる解析
- 手動チェック
6. UXデザインと検証
単なるUIだけでなく、包括的なUXデザイン(画面遷移、情報設計、コンテンツ設計)についても検討を重ね、実際のユーザーフローを体験できるプロトタイプを作成します。
- ナビゲーションUXの設計
- UI/UXプロトタイプの統合
- ユーザーシナリオによる全体検証
具体例として、
- ナビゲーションUX設計
- 情報アーキテクチャ設計
- 画面遷移モデル作成
- UI/UXプロトタイプ統合
- プロトタイピングツールで統合
- リッチな体験を再現したプロトタイプ化
- ユーザーシナリオによる全体検証
- 代表ユースケース(検索~決済)の体験
- 課題と改善点の特定
7. ガイドライン文書化と組織的な浸透
確定したUI/UXガイドラインを体系的に文書化し、組織全体に周知・徹底させる必要があります。
- UIコンポーネントライブラリの整備(スタイルガイド、パターンライブラリ)
- UI設計ルール/アクセシビリティガイドラインの文書化
- ガイドラインの浸透(トレーニング、デザインレビューの実施)
具体例として、
- UIコンポーネントライブラリの整備
- Storybook等のツールでコンポーネントライブラリ化
- デザインシステムの構築
- ガイドライン文書化
- UIデザインガイドライン
- アクセシビリティガイドライン
- 組織浸透
- デザイナー/エンジニア向けトレーニング
- デザインレビュープロセスの確立
8. 継続的な改善
UI/UXガイドラインは一度確立しただけでは不十分です。ユーザーフィードバックを常に収集し、新たな要求や課題に対応していく継続的な改善サイクルが必要です。
- ユーザー調査の定期実施
- A/Bテストの継続と評価指標の追跡
- ガイドライン見直しのサイクル化
- デザインシステムの進化的拡張
具体例として、
- ユーザー調査の定期実施
- 四半期ごとにリサーチを実施
- 新機能へのフィードバックを収集
- A/Bテストと評価指標の追跡
- コンバージョン率や滞在時間などを計測
- 有意差のあるパターンをリリース
- デザインシステムの進化
- 新UIパターンをシステムに取り込む
- コンポーネントの拡充を継続
このようなプロセスを経ることで、ユーザーにとって使いやすく魅力的なWebシステムのUI/UXを実現できます。デザイン指針は、単にビジュアル面だけでなく、ナビゲーションや情報設計といったUXの本質的な側面にも及ぶ包括的なものとなります。ユーザー中心の理念を貫き、データに基づく検証を繰り返しながら、組織的な標準を確立・改善していくことが重要です。